2012年2月4日土曜日

JICA新理事長の「新しい中世」2

JICAの新理事長田中明彦氏の「新しい中世」を読み終えた。わりと長くかかったのは、田中明彦という人物像を知ろうとかなり細密に行間を追ったからである。この「新しい中世」に描かれた世界観というか、国際政治の理論は非常に興味深かかった。1月18日のエントリーで、この概説を調べて書いたが、実際に読むと、その論の前提部分がかなり長く、かつ面白い。冷戦の意味、冷戦崩壊後の世界の考察、アメリカの覇権、さらにアメリカの覇権衰退という事実を受けて、「相互依存」をキーワードに論は進む。この相互依存の進展と制度化によって、「新しい中世」と呼ばれる先進国の状況が説明されるのである。さらに、この示された三圏(新中世圏・近代圏・混沌圏)の相互作用について検討が加えられ、日本の周囲である東アジアについて考察が加えられていく。

1996年春時点での考察であるが、決して古めかしいなどとは思えない。つい最近も企業では外国人の社員を大幅に採用していくというようなニュースが流れている。これなど「新しい中世」的現象以外の何物ではない。先進国=新しい中世圏では、国家という枠組みは当然あるものの、経済だけでなく、政治面でも「相互依存」が進み、近代国家=国民国家という概念からはみ出しているのが現状である。外政問題は、すでに内政問題である。タイの洪水も実は日本の問題であるし、EUの危機も、アメリカ大統領選挙も「相互依存」がこれだけ進めば、遠い他国の話ではない。田中氏の指摘は、今も正しいと思う。

実際手にとって読んでみて、一番印象に残ったのは、三圏(新中世圏・近代圏・混沌圏)の分類上の手法である。世界の国家群を、平均寿命を60歳以上と未満、1人あたりのGDP1万ドル以上と未満の2つのカテゴリーで3分割した後、さらに体制自由度(高・中・低)で3分割し、計9分割する。そのうち、平均寿命を60歳以上かつ1人あたりのGDP1万ドル以上かつ体制自由度が高いグループが、新しい中世圏となっている。反対に、平均寿命を60歳未満かつ1人あたりのGDP1万ドル未満かつ体制自由度が低いグループが、混沌圏である。残りの7グループは全て近代圏となっている。(右図参照)当然、1996年当時の統計によるものなので、たとえば、ジンバブエの体制自由度は低であろうとか、ブータンは王制だが体制自由度はもっと高いのではないかなどの疑問がわくのは当然である。とはいえ、この資料、断然面白い。思わずスキャンせず自分で作成してしまった。(笑)

さて、肝心の田中氏のアフリカ諸国など混沌圏への視点は、極めて常識的な視点だった。最後の最後にそれは出てくるが、1996年当時の視点として甚だ妥当なものだと思われる。氏の就任会見を楽しみにしているところである。

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