学生時代に1tの本を読め!

-私はこんな本を読んできた(2017年度版)-      
学生時代に1tの本を読め!
            IBTのOB/OGのためも含めての改訂版 
2007年度版(私が担任した大阪市立M高校60期生用)の原本に、2度目の加筆をして62期生に贈った2009年度版、さらにマレーシアから日本に留学するIBTのOB・OGのために2017年改訂版をエントリーしたい。
<2009年度版のまえがき>
私の蔵書は膨大で、当然その全てを紹介できない。10冊読んでアタリは1冊くらい。いい本に巡り会うと嬉しいものだ。受験を終えたら、自分の属性にしたがって、どんどん本を読もう。そして世界へ出ていって欲しい。私の興味にしたがっているので、当然、現代史やアメリカ本、アフリカ本が多い。あまり役にはたたないかかもしれないなあ。(笑)
<2017年度版のまえがき>
今や、膨大な蔵書はない。(マレーシアに来たので、妻がほとんど処分したのである。大阪の自宅の書庫は、イェルサレムから帰国した息子の蔵書が山積になっている。)幸い、この「アフリカ留魂録」に書評として備忘録は残してある。新しい推薦本は、少し字体の色を変えて記そうかと思う。詳細は「書評」で検索して欲しい。

現代アフリカ経済論 北川勝彦・高橋基樹 ミネルヴァ書房
  少なくともこの本が現在、アフリカ開発経済学のテキストとしては最高であると私は思っている。

●アフリカ学入門 舩田クラーセンさやか編
  格好のアフリカ学入門書である。著者は東京外国語大学教授で、モザンビークの専門家である。JICAのブラジルを絡めた南南支援を批判している方。

●アフリカから学ぶ 峯陽一編
 アフリカから学ぶという視点で書かれたアフリカ学入門書。超重要な一冊。著者は、同志社大学のグローバルスタディの教授である。

子どもたちのアフリカ 清水貴夫・亀井伸孝編 昭和堂
  アフリカの子どもたちについて、17の小論で構成される本書は、貴重な記録であると共に、アフリカから学ぼうとする姿勢が溢れている好書である。

●遊動民-アフリカの原野に生きる 田中次郎・菅原和孝・太田至・佐藤俊編
  アフリカの文化人類学、特に遊牧民について書かれた大著。これも様々な研究成果が17の小論で構成されている。読み応えたっぷりの大著である。

●統計はウソをつく(モルテン・イェルウェン著 青土社)
  アフリカの開発経済学の基盤である統計資料について疑義を訴えた本。衝撃的。

●貧困を救うテクノロジー(イアン・スマイリー著 イーストプレス)
  これもインフラ整備よりも有効な簡単なテクノロジーを示したアフリカ対策の本。

●サンダルで歩いたアフリカ大陸(高尾具成 岩波書店)
  様々なアフリカのルポタージュの中でも、まさにこの一冊という感じ。

●アフリカ社会を学ぶ人のために(松本素二編 世界思想社)
  松本先生の編による京大のアフリカ研の先生方も参加されている文化人類学の本

●経済大陸アフリカ(平野克巳 中公新書)
  レンティア国家について書かれている。それまでのアフリカ開発経済学の視点を一気に変えた一冊。

●謎の国家ソマリランド(高野秀行 本の雑誌社)
  ソマリア問題について書かれた本は少ない。高野氏はアフリカの専門家ではないが、十分に学問的な内容を含んでいる。

●風をつかまえた少年(ウィリアム・カムクワンバ 文春文庫)
  全ての高校生・大学生に読んで欲しい一冊。マラウイの少年が風力発電を独学と自力で制作する話。学ぶと言うことの意味を先進国の人々に問いかけている。

●はしごを外せー蹴落とされる発展途上国(ハジュンチャン 日本評論社)
  先進国と発展途上国の関係性を説いた本。その構造的暴力に気づくべきであると私は思う。

●都市を生き抜くための狡知-タンザニアの零細商人マチンガの民族史(小川さやか 世界思想社)
  大阪の道祖神主催の小川さやか氏の講演を聴きに行ったことがある。聴衆はたった3人くらいだったが、非常に面白かった。この本を読むとインフォーマルセクターの実態がよくわかる。

●国際協力師になるために 山本敏晴 白水社 
  将来、国連職員やJICA、NGOなどで活躍したいと考える人に贈るバイブル。単なる「なり方」だけでなく、国際協力の基礎的な知識(HDIやジニ計数など)も書かれているし、国際協力のプロジェクトの実際の進め方も書かれている。今のところ、これにまさる国際協力関係志望者への入門書はない。

●貧困の終焉 ジェフリー・サックス  早川書房
  私的には、2006度最優秀本。国連のミレニアム開発目標にかかわった著者の言を私は、素直に信じたい。ちなみに、この「貧困の終焉」と「プランB」は、秋田県立の国際教養大学に行っていたOG(フランス留学後卒業)によると、授業で原文購読させられたとか。なんていい大学だっ!と私は叫んだ。

●プランB 2 . 0 レスター・ブラウン  ワールド・ウィッチ・ジャパン
  2007度、私が最高に衝撃を受けた一冊。度々授業で紹介した環境問題を中心にエコ・エコノミーについて書かれている。具体的なエコ・エコノミーについては、京都議定書の排出権や新しい技術、経営手法が書かれている地球温暖化で伸びるビジネス(日本総合研究所)もあわせて読んでごらん。オバマ大統領の就任演説で「グリーン・ニューディール」という指針が示されたが、おそらく、このプランBをもとにしていると思われる!政策系学部の必読の書になったと思うね。

●最底辺の10億人 ポール・コリアー 日経BP社 
  2008年度のMVB(book)である。6月30日発行で第1版第1刷を私は購入して読んだが、7月中旬にJICA大阪に行った時、神戸大学の法学部の教授とこの本について、すでに語り合った経験がある。また関西大学政策創造学部に進学したOGから、最高のお勧め本を聞かれ、これを推薦したら、ゼミ教授と同じですとのメールが届いた。それくらい途上国とかかわりのある業界(?)では、大きな衝撃作だったのである。先日(1/18)続編の「民主主義がアフリカ経済を殺す」がでた。デモクレイジーについて書かれている。なかなか面白い。その後、「収奪の星ー天然資源と貧困撲滅の経済学」が出た。持続可能性について光をあてている。

世界の独裁者-現代最凶の20人(六辻彰二 幻冬舎新書)
 悲しい事ながら、デモクレイジーによって独裁を許している国はアフリカが多い。

●アフリカ ―動き出す9億人市場― ヴィジャイ・マハジャン 英治出版 
 2009年度のMVB(book)である。アフリカの本は、だいたいアフリカの暗い問題点を書いたモノが多い。この本は、めずらしくアフリカの将来性を讃えた本である。本来は、マーケティングの本である。アフリカには、これから期待される消費市場(アフリカ2)が形成されつつあり、最底辺のアフリカ3にも、マーケティングの妙によってビジネスチャンスが多くあるという内容。この本の趣旨を入れて、オリジナルテキスト「高校生のためのアフリカ開発経済学」を改訂し、バージョンアップする予定だ。ブルキナファソで知り合ったアフリカ専門家・名大の文化人類学博士課程S氏も、統計数値がマグレブ諸国(北アフリカのアラブ圏)や南アフリカ共和国のものばかりで物足りないが…との批判しつつも絶賛のアフリカ本である。

●チョコレートの真実 キャロル・オフ 英治出版
  ブルキナファソとマリの少年が、コートジボアールのカカオ農園で強制労働させられている話を軸に、様々な側面から「構造的暴力」を暴く一冊。国際関係や、政策、国際経済を学ぶメンバーには是非読んで欲しい。この本はJICAの情報誌で紹介されていた。書評を見ることは読書家にとって重要。

●あなたのTシャツはどこから来たのか? ピエトラ・リボリ 東洋経済新報社
  全米出版社協会最優秀学術書。経済学者が、テキサスの綿花生産現場、中国の医療生産現場などを実際に取材して書かれたグローバリゼーションの裏側、たてまえの自由貿易と、地域エゴの保護貿易が錯綜するアメリカを描き出している。マクロ経済や、国際経済、国際関係を学ぶメンバーにおすすめ。

●武器としての社会類型論-世界を五つのタイプで見る-(加藤隆 講談社現代新書)
  ここ数年世界史を講ずるときに使っている自由な個人と不自由な共同体のヨーロッパの社会類型のネタ本。著者は、千葉大学教授で渡欧中に神学の講義でインスピレーションを得たという。
  
●兵士に聞け・兵士を見よ・兵士を追え 杉山隆男 小学館文庫
  自衛隊に密着取材した筆者が、陸上自衛隊の特別訓練に参加したり、F15に搭乗したり、ディーゼル潜水艦に乗艦したりと、普段知り得ない陸・海・空の自衛隊の素顔を教えてくれるシリーズもので全3冊。国際関係学の中に平和学というのがあるが、平和学は軍事学でもある。私はこういう知識ぬきに国際政治は語れないと思っている。それぞれページ数が多く、ぶっとい。でも安いのでお得な3冊かな。

●国家の罠 佐藤 優 新潮文庫
  「疑惑のデパート」と揶揄された鈴木ムネオ衆議院議員と共に逮捕された外務省のロシア専門情報官の佐藤優氏の獄中記。私は、ナイロビの日本大使館で、外務官僚と接触し、大嫌いになったが、この佐藤優氏の「人物」と、ここで暴露された「外務省の話」は凄いと思う。ちなみに彼は意外なことに同志社大学神学部大学院卒で我が愚息(修士課程)の先輩でもある。なお、旧ソ連時代、外務省調査官時代の体験を描いた「自壊する帝国」(新潮文庫)もいい。国家の罠を読んだら、これを続けて読むことを勧める。「国家と神とマルクス」(角川文庫)、「私のマルクス」・「蘇る怪物」(文芸春秋社)は、私にとっては、ものすごくおもしろいのだが、社会科学をかなりやってからでないと、そのおもしろさはわからないだろな…。いずれにせよ、佐藤 優の博識と知的創造力には、完全に脱帽である。さらに「日米開戦の真実」、「新・戦争論」「大世界史」「大国の掟」などもいい。

●砂漠の戦争 岡本行夫 文春文庫
  外務省の話が出たので…。イラクで不慮の死をとげた外交官・奥克彦氏を追悼したドキュメント。こんな凄い外交官(やつ)もいたのか、と思える一冊。もし外交官試験をめざすなら絶対読んで欲しい。私の読んだ文庫本は、外交官をめざすという神戸大のテニス部OGに激励のため、あげてしまった。

●大仏崩壊 高木徹 文春文庫
  大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。アフガニスタンのタリバン政権に、ビン=ラディンのアルカイダがいかに近づいたか、9.11のプレリュードを描き出すノンフィクションの傑作。ちなみに、この大仏とはアフガニスタンのバーミヤン遺跡のこと。世界遺産のうち最大の危機遺産となった。

●戦争広告代理店 高木徹 講談社文庫
  ボスニア紛争の時、ボスニアの外相がアメリカの空港に降り立つ。彼が頼ったのは、広告代理店。いかに効果的に、自国に有利なようにアメリカ世論を動かすか。マス=コミの力と怖さを実感する一冊。小泉首相の劇場型政治も、こういう演出効果を意識した、マスコミを飼い慣らした成果だと私は思う。

●深夜特急(1~6) 沢木耕太郎 新潮文庫
  私の愛読書、いや日本のバックパッカーのバイブル。沢木耕太郎は私が最も好きな作家でもある。ユーラシア大陸を香港からロンドンまでバスで横断するノンフィクションだが、私は特にインド編・ネパール編が好き。沢木耕太郎のノンフィクションは史上最強である。ほとんど読破しているが、テロルの決算人の砂漠などは特に読み応えがある。またバーボンストリーなどのエッセイもお薦め。

●哲学用語図鑑(田中正人 プレジデント社)
  古代から現代までの西洋哲学史を、黒とピンクの二色刷りでイラスト化した図鑑。これがなかなか面白く分かりやすい。

●JAPAN AS IT IS 日本タテヨコ 学研
  以前JICA大阪国際センターで、日本に来た途上国の研修員さん向けに各部屋に置いていた本。見開きの英語と日本語版で、日本の行事や習慣など、硬軟さまざまな事項が書かれている。留学生が本校に来ると、私はまずこの本を見せ、興味をもった所をコピーしてあげることにしている。みんなが、世界に旅立つとき、リュックに忍ばせてもいいのではないかなあ。異文化理解は自文化理解なり。(愚息の言)

●カリフ制再興(中田考 書隷心水)
  愚息のイスラム学の師である元同志社大学の中田考氏の本は実に面白い。この他にも「イスラーム生と死」、内田樹氏との対話の「一神教と国家」、橋爪大三郎氏との対談「クルアーンを読む」、「イスラーム法の存立構造」、「帝国の復興と啓蒙の未来」などがある。

●ふしぎなキリスト教(橋爪大三郎 講談社現代新書)
  中田考氏と対談した社会学者の橋爪氏の本も面白い。この著作は特にキリスト教の問題点を突いている。教養としての聖書もいい。

●私家版・ユダヤ文化論(中田樹 文春文庫)
  同じく中田考氏と対談している内田樹氏の本。こっちはフランス現代思想とユダヤ学の専門家で、数多くの本を書いている。どれも面白い。現代日本のオピニオンリーダーとして活躍中。

●ホロコースト全史(マイケル・ベーレンパウム 創元社)
  ホロコースト(ショア)について日本語で書かれた本の中でおそらく最も詳細な本だと思う。「イスラエル人とは何か」(ドナ・ローゼンタール 徳間書店)とあわせて読むのがよいと思う。

●国家と対峙するイスラーム(塩崎悠輝 作品社)
  マレーシアのイスラームについて書かれた珍しい本。国民国家としてのマレーシアとイスラーム国家としてのマレーシアの止揚をいかに行っているかというのが主題。結局のところ、ファトワという問題が提示される。

●南方特別留学生ラザクの戦後-広島・マレーシア・ヒロシマ(宇高雄志 南船北馬舎)
  マレーシア本の紹介。IBTにも関係する故ラザク先生の戦後について書かれた本。著者は兵庫県立大学の建築の先生。「住まいと暮らしにかかる多民族社会マレーシア」も実に面白い。さて、ラザク先生の東京大空襲。ヒロシマでの被爆を描いた「わが心のヒロシマ」(オスマン・プティ 勁草書房)は、IBTの学生必読の書だと思う。

●シリア難民(パトリック・キングズレー ダイヤモンド社)
  シリア難民だけでなくエリトリア難民の真実の姿を記録したルポタージュ。善悪を越えた様々な世界の情勢がわかる一冊。

●アラブの春の正体を読む(重信メイ 角川ONEテーマ21)
  アラブの春はチュニジア・エジプト・リビア・シリアだけではなく湾岸諸国やサウジにも大きな影響を与えていたという、欧米メディアに偏った報道しか知らない我々に衝撃の事実を与えてくれる。著者は連合赤軍の重信房子の実の娘さんだが、そういう目で見る必要はないと思う。

●人名の世界地図 21世紀研究会 文春新書
  ALTが変わるたびに、開ける新書。特に欧米人の人名にまつわる逸話の宝庫で、ユダヤ・キリスト教関連やギリシア・ローマの伝統などが、いかに欧米の文化を創ったかがわかる。マシューはマタイ(イエスの弟子の1人)、サラはアブラハム(一神教の祖)の妻の名前だ。異文化理解のために必読の書。同シリーズで、地名の世界地図常識の世界地図民族対立の世界地図民族の世界地図食の世界地図色彩の世界地図イスラームの世界地図法律の世界地図などがある。人名の世界地図はその中でも愁眉。

●日本人に贈る聖書物語(中川健一 文言社文庫)
 旧約聖書から新約聖書に至るまで、小説風に聖書の内容を記した文庫本集。文章は平易だが、長いのでかなりの労力を持って読む必要がある。

●愛蘭土紀行Ⅰ・Ⅱ・オランダ紀行・南蛮のみち など 司馬遼太郎 朝日文庫
  私は司馬遼の「街道を行く」シリーズは、外国編しか読んでいない。これは私の嗜好だが、それぞれに趣がある。愛蘭土(アイルランド)紀行は、その風土から生まれた精神性、オランダ紀行はその合理的な生きる知恵、南蛮のみは、バスク人というキーワードから、それぞれを論じている。司馬遼の知性には全く頭が下がる思いだ。もし、その方面に旅をすることがあれば是非読んで欲しい。

●竜馬がゆく(1~8) 文春文庫 司馬遼太郎
  若いうちに読むべき、坂本竜馬を中心に明治維新期を描いた超名作。司馬遼の人間学がふんだんに盛り込まれている。第1巻目はちょっとしんどいが、2巻目からはどんどん読み進めることができる。西郷と竜馬の最初の出会いのシーンは圧巻。全部読み切った後、誰が最も好きかを語り合うのが「通」の読み方。ちなみに私は勝海舟。「彼の美学」が最も美しい。中国の古典・三国志もこんな読み方をする。(笑)

 ■「近代国家論」を幕末・維新の歴史小説(文庫本)から読み解く-司馬遼を中心に-
                 (2008年度特集をさらに本年度改訂)
 幕末・維新史を読み解くには、司馬遼の歴史小説から入るのがいい。まずは、上記の「竜馬がゆく」でアウトラインをつかんでから、興味のわいた人物に進むとよい。高杉晋作・吉田松陰なら「世に棲む日々(1~4)」(文春文庫)、西郷・大久保なら「翔ぶがごとく(1~10)」(文春文庫)ただし、これは維新後から西南戦争までを長く新聞連載したもので、桂小五郎の性格説明などかなりのクドい。でも「薩摩人」と「長州人」の違いがよくわかる。山内容堂や島津久光なら「酔って候」(文春文庫)、京都守護職だった会津藩主松平容保なら「王城の護衛者」(講談社文庫)、竜馬の死後一瞬の輝きをみせる天才軍略家大村益次郎なら「花神(1~3)」(新潮文庫)、薩摩・長州に維新政府で対決した肥前の江藤新平なら「歳月(1~2)」(講談社文庫)、藩の自主独立を目指した陽明学徒・長岡藩の河井継之介ならば「峠(1~3)」(新潮文庫)。私自身は、この「峠」が一番おもしろかった。この他にも短編集の「アームストロング砲」(講談社文庫)、「幕末」(文春文庫)から入るのもいいかもしれない。
さて、問題は、「最後の将軍・徳川慶喜」(文春文庫)である。司馬遼は、慶喜のことをボロクソに描いているのだが、山岡荘八の歴史文庫の「徳川慶喜(1~6)」では、見方が180度変わってしまう。御三家とは、徳川将軍家と尾張・紀州のことであり、水戸は、朝廷と幕府の間にあり、将軍に問題あれば意見をするための副将軍であることがわかる。孝明天皇と松平容保の関係など、幕府側からの「負けた側の論理」で幕末・維新を読み解ける超おすすめの作品。同じ山岡荘八の歴史文庫「吉田松陰」もおもしろかった。山岡荘八の視点は、司馬遼より、かなり国学的かつ水戸学的である。
さて、司馬遼にもどって「翔ぶがごとく」を読んだ後は「坂の上の雲(1~8)」(文春文庫)。日清・日露戦争モノで、NHKでドラマ化されている。近代国家論を思索するのにはいいかな。この作品に対して批判の本も出ているのでその批判本も読むべきである。それが正しい読み方だと思う。
 その他、清河八郎を描いた藤沢周平の「回天の門」(文春文庫)、佐久間象山を描いた童門冬二の「幕末の明星・佐久間象山」(講談社文庫)、海音寺潮五郎の「西郷と大久保」(新潮文庫)、津本陽の「勝海舟(上下)」(玄冬社文庫)などもお勧め。現時点(2010年1月)での最新刊では、佐藤雅美の「覚悟の人」(角川文庫)がいい。この本は、「大君の通貨」を書いた著者が、小栗上野介の生涯を描いたもの。幕府の中枢という視点から描いた幕末ものは少ないし、面白い。勝海舟もボロクソ、西郷や大久保はゴロツキ、徳川慶喜は卑怯者と明言されている。視点が変われば、歴史とはそういうものなのだ。
 一方で、大佛次郎の「天皇の世紀」が、復刻された。朝日新聞社からは全10巻で、文春文庫はまず第1巻が2010年1月にでた。私は、古本の全17巻文庫版を、オークションで落札した。この文庫版、印字が小さいので、老眼の私には通勤途中に読むにはかなり苦しい。原文の引用も多く、様々な幕末・明治維新ものをかなり読み込んでからでないと詳細なノンフィクションゆえ、きついと思う。しかし、多くの歴史的事件の隙間をうめる大書であることに誰も異議をはさまないだろう。

●幕末入門 中村彰彦 中公文庫
  会津・新撰組・長州・薩摩・土佐の各藩ごとに、幕末・維新の必要最小限の知識をコンパクトにまとめた文庫本。最初に読むよりは、いくつか歴史小説を読んでから目にするほうがいいと私は思う。最終章は4つの謎(姉小路公知暗殺・孝明天皇の毒殺疑惑・竜馬暗殺の黒幕・討幕の蜜勅儀文書疑惑)について筆者の意見が書かれている。私も同感できる。

●岩倉使節団-誇り高き男たちの物語(泉三郎 祥伝社黄金文庫)
  維新後の方向性を定めた岩倉使節団の内実に迫った文庫。なかなか読み応えがある。特に、木戸と大久保はそれぞれ憲法問題に目を向けるのだが、結局欧米の背後にあるキリスト教ではなく天皇制に帰着するところは凄い。

●天皇と東大Ⅰ~Ⅵ(立花隆 文春文庫)
  恐ろしく詳細な天皇制と東大(帝国大学)の関係性や問題を論じた大著である。実に面白い近現代史の逸話がちりばめられている。

●アメリカの作り方 歴史探検隊 文春文庫
  1年C組世界史Aの基本教材。アメリカ史を読みやすくまとめてある。数々の逸話も秀逸。アメリカをやるなら、まずこの文庫本から始めるといい。本の価値は、価格ではない。

●アメリカ50州を読む地図 浅井信雄 新潮文庫
  最近文庫本になった。アメリカをステレオタイプで理解するのは大きな問題がある。この本は、おそらく最も早く州ごとの様々な情報をまとめた本である。アメリカの地域研究をやるなら一読すべし。

●アメリカ合州国 本多勝一 朝日文庫
  アメリカ論の古典といってよい本。本多勝一は、一世を風靡したリベラル派のジャーナリスト。南部やNYハーレムでの黒人差別、ネイティブ・アメリカンへの人種差別を描いている。合衆国と書かず合州国と書くのが本多勝一のこだわり。続編も出ている。なお、日本と最も遠い異文化を描いたアラビア遊牧民、南京事件や満州の日本軍を描いた中国の旅、ベトナム戦争を描いた二部作・殺す側の論理、殺される側の論理なども彼の名著中の名著といえる。国際関係学をやるなら読んでおいた方がいい。

●アメリカ 藤原新也 集英社文庫
  藤原新也は、「印度放浪」などで知られる東京芸大中退の芸術家&作家である。キャンピングカーで全米を走破し、アメリカを皮肉っぽく描いている。しかし、彼の視点はするどく、寸鉄の趣がある。

●アメリカ素描 司馬遼太郎 新潮文庫
  司馬遼太郎の日本知識人的アメリカ論。本多勝一、藤原新也、司馬遼と読み比べて見て欲しい。アメリカの見方が全くといっていいほど違う。本を読む、研究するというのは、こういう読み比べが重要だ。

●アメリカとは何か100章 大森実 講談社文庫
  一時代を築いたジャーナリスト大森実がまとめたアメリカ論。読むのには、ちょっとばかり政治・経済・歴史などの基礎知識がいるが、やはり大森実だなといえる一冊。本物のジャーナリストとはこういう論を書けるものだ。エンピツ一本(上・中・下)という自伝もジャーナリストをめざすなら必読かな。
大森実には、人物現代史シリーズ全13巻(ヒトラー・ムッソリーニ・スターリン・チャーチル・ルーズベルト・ケネディ・ドゴール・ホーチミン・毛沢東・ファイサル・ネール・カストロ・現代史のルーツというWWⅡから戦後にかけての国際政治を描いた力作がある。私の現代史研究のルーツ本でもある。また戦後秘史シリーズ全10巻も有名。これらを全部読んだが、根性がいるぞ!(笑)でも、現代史には絶対強くなる。それぞれ古い本だが、大学図書館にはあるはずだし、インターネットで手に入るかも。

●アメリカ精神の源 ハロライン芙美子 中公新書
  アメリカのキリスト教事情について書かれた本。アメリカ関連では特におすすめ。ちなみに著者はカトリックである。アメリカのキリスト教各派には、見えないヒエラルヒーが存在するのである。教科書やマスコミでは取り上げないアメリカの実像がここにある。アメリカを研究するメンバー、米文学をやりたいメンバーには、後述の「知って役立つキリスト教大研究」と共に必読。

●ニューヨーク読本Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ 常盤晋平/選 福武文庫
  手に入りにくいと思うが、もし古本屋で見つけたら是非手に入れて欲しい。様々な人が書いたニューヨークのエッセイ集。立花隆は連邦準備銀行の金塊について語り、三島由紀夫は貧乏旅行の顛末を書いている。ニューヨークはいい。ありとあらゆる民族の、富と貧困のカオスだ。是非足を運んで欲しい。私のおすすめは、FRBの金塊ツアー(無料)とハーレム・ゴスペルツアー(有料)、MoMAの「クリスチーナの世界」という絵、エリス島の移民博物館、イントレピッド航空宇宙博物館、そしてユダヤ人街・ダイヤモンド・ロウ。できればどこかのシナゴーグに土曜日(ユダヤ教の安息日)飛び込んで欲しいな。

●史上最高の投手はだれか 佐山和夫 潮文庫
  黒人が誰もメジャーリーグに入れない時代、ニグロ・リーグという場で大活躍したサチェル・ペイジという完全試合の記録など数知れずの伝説的な投手の話。私は、サウスダコタ州のモーテルで、夜な夜なこの本を読んでいた。(←自慢)アメリカ学、人権問題の隠れた名著であることはまちがいない。古い本なので、古本屋かネットのショップで発見したら手に入れるべし。

●WASP(ワスプ) 越智道夫 中公新書
  アメリカを学ぶ上で、必要不可欠な概念・WASPについて書かれた手軽な一冊。このWASPに対抗したアイリッシュ・JFKの項は特におもしろい。越智道夫氏は、猿谷要氏と共にアメリカ研究の第一人者である。猿谷要氏の本もいいよ。

●アメリカ海兵隊 野中郁次郎 中公新書
  日本の憲法第9条の「その他の戦力」とは、海兵隊をイメージしている。アメリカの軍事力の中でも海兵隊の占める位置は大きい。アメリカ大統領がホワイトハウスからキャンプ・デービットなどへ移動する時乗るヘリは海兵隊のものであることを知る日本人は少ない。平和学には必読の書。
  
●サンフランシスコ旅の雑学ノート 枝川公一 新潮文庫
  旅の雑学ノートシリーズは、総じておもしろい。私は地理を教えるからか、こういう世界の地誌のこぼれ話を集めていて、ほとんど読んでいる。中でもサンフランシスコ版は古い本だが、おもしろい。

●ジョン・ウェインはなぜ死んだか 広瀬隆 文春文庫
  広瀬隆は、ものすごく文章の下手な作家だ。しかし彼の核問題への造詣は深い。この本はネバダの砂漠で原爆実験が行われ、アトミック・ソルジャーが被爆、さらに西部劇のスターにつながる話。広瀬隆は、この他に、億万長者はハリウッドを殺す(アメリカの資本主義裏面史:モルガンとロックフェラー財閥の歴史)、赤い盾(ヨーロッパのユダヤ資本ロスチャイルド家の歴史)など、世界を実際に動かしているのではないかという人々を、莫大な資料をもとに暴いている。もうすこし文章がうまければ良いのだが…。

●語るに足る、ささやかな人生 駒沢敏器 小学館文庫
  アメリカのスモールタウンを訪ねる旅の記録。アメリカの真の姿はNYにもLAにもない、田舎の小さな町にこそあると思う。この本の中でいくつかのスモールタウンの話が出ているが、私はサウスダコタ州ウォール、アリゾナ州のセリグマンに行ったことがある。だからではないが、優れたレポートである。

●タイム・オブ・イノセンス サナエ・カワグチ 清流出版
  私がNYに行ったときのB&Bのオーナー、日系二世のサナエさんが書いた本。カリフォルニアで育ち、太平洋戦争では、敵国人として差別をうけ、その後ダンサーを夢見て旅立つまでを描いた自伝的小説。私は彼女に、ワシントンDCに行くなら、スミソニアン歴史博物館に行って「多様性の統一」という日系移民の展示を見るようにいわれた。おかげで、すごく勉強になった。彼女の亡夫は舞台演出家で、シャガール(画家である)とも親交があったとか。NYを発つ前、仏壇に手を合わせた。南高校図書館蔵。

●我が志アフリカにあり 島岡由美子 朝日新聞社
  数あるアフリカ本の中でも、特に感銘をうけた一冊。著者の夫のことを書いた伝記風のノンフィクション。現在、ザンジバルに住むタンザニアの柔道チームのコーチである夫、たしかに、ただ者ではない。一昨年、大阪国際交流センターで、ワン・ワールド・フェスティバルが開かれ、タンザニアの柔道を支援するNPOが出展していた。聞くとやはり島岡氏と関係があった。その筋では有名な人物である。

●観光コースでないアフリカ西海岸 桃井和馬 高文研
  著者は本来カメラマンで、下川祐二というビンボー旅行作家の相棒で、10万円で世界を一周したりしていた。彼の「筆」で描かれた西アフリカ各国の姿は、するどく、アフリカ本でも超オススメの一冊。

●ムチョラジ! 坂田泉 求龍堂
  ナイロビの大学に専門家として行った建築家が、貧しいが活力に満ちたナイロビ市民をエッセイと水彩のスケッチで描いた作品。随所に生のアフリカが読みとれる。紀行文としても、途上国の現状報告としても一級の作品だといえる。ケニアの話なら早川千晶氏(現地でも日本でも何度かお会いしている)のアフリカ日和も読みやすくていい。ムチョラジ!もアフリカ日和も南高校図書館蔵。

●ゴーゴー・アフリカ(上・下) 蔵前仁一 凱風社
  蔵前仁一は、前述の下川祐二、また前川健一などと並ぶバックパッカー紀行作家である。彼は、旅行人という雑誌(季刊)の編集長でもあり、彼らの中心的存在。様々な本を出しているが、ゴーゴー・アフリカ、ゴーゴー・インド、ゴーゴー・アジア、旅ときどき沈没などが特に有名。イラスト入りで読んでいておもしろい。バックパッカー入門書としても読める。このゴーゴー・アフリカの対蹠点に位置するバックパッカー本にアフリカ漂流 鈴木正行(1~6)がある。旅は、ある意味で自分探しなのだと私は思う。事実の記録として有為なので全巻読破したが、鈴木氏のめざす旅が何か、ついに私には見えなかった。

●行かずに死ねるか! 石田ゆうすけ 幻冬舎文庫
  世界を旅したバックパッカー本は数多く、見つけ次第読んでいるが、これは自転車で南米からアフリカまで世界一周したもの。読後感がすがすがしい。彼の人間性がこの読後感を生んでいるのだろう。彼によるとメキシコの遺跡が最高だったという。こういう情報が授業ネタ。(笑)その他、骨太のバックパッカー本である上海の西デリーの東 素樹文生(新潮文庫)や、女性の視点が好印象の新人作家で、インド編・モロッコ編などシリーズ化しているたかのてるこの、今やチベット密教の中心地・インド・ラダック地方で現地人とのスッピンの交流を描いたダライラマに恋して(幻冬舎文庫)などがオススメかな。

●実録天皇記 大宅壮一 角川文庫
  大宅壮一は、戦後日本のジャーナリズム界の鬼才ともいえる存在。日本の政治、近代化を語るうえで、天皇制は絶対はずせない。この本は、そのバイブルともいえる本だ。天皇=象徴という概念だけでは、日本を語れないのである。社会科学をやるメンバーには是非一読して欲しい。あわせて、加藤英明の天皇家の戦い(新潮文庫)もおすすめの一冊。

●ミカドの肖像 猪瀬直樹 小学館
  元全学連委員長であり、小泉政権の元政府委員、元東京都副知事である猪瀬直樹の著作もだいたい読破している。最初に読んだのがミカドの肖像である。明治天皇の肖像に隠された秘密、西武の創業者と皇室の土地を買収してプリンスホテルを開業していった事など、天皇ブランドを暴いた作品。続編として土地の神話、欲望のメディアがあり、猪瀬・三部作となっている。他に、東条英機が敗戦を覚悟していたことを描いた昭和十六年夏の敗戦、また二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのかなどが特におもしろい。

●小説吉田学校 全8巻 戸川猪佐武 角川文庫
  現代の政治を理解するのは、はなはだ難しい。新聞を読んでも、幹事長・総務会長・政調会長など役職の意味がわからないと思う。この小説は、戦後の自由党と民主党(今の民主党じゃないよっ!)の合同から、三角大福中の時代を描いた政治小説である。いろいろな人名や役職が出てくるが、最初わからなくとも、やがて慣れる。慣れたとき、疑問がわき、関連事項を知りたくなる。そんな本だ。戸川氏の続編(永田町の争闘全3巻)もあるが、最近は、大下英治という作家が、この流れで同様の小説を次々と書いている。多くの政治家をインタビューして作られているので、私は半分ドキュメンタリー的な小説として読むことが多い。新聞の政治欄がすらすら読めるようになるためには、大量の読書は避けて通れない。

●日本の選択 ①~⑨ NHK取材班 角川文庫
  戦前から戦争に向かった日本の姿を取材したノンフィクションシリーズ。①理念なき外交パリ講和会議、②魔都上海十万の日本人、③フォードの野望を砕いた軍産体制、④プロパガンダ映画のたどった道、⑤対日仮想戦略オレンジ作戦、⑥金融小国ニッポンの悲劇、⑦満州国ラストエンペラー、⑧満州事変世界の孤児へ、⑨ヒトラーに派遣されたスパイの全9巻。中でも⑤対日仮想戦略オレンジ作戦は、アメリカが入念に対日戦を準備していたことが描かれ、太平洋戦争を語るうえで必読の1冊。

●太平洋戦争 日本の敗因 ①~⑥ NHK取材班 角川文庫
  太平洋戦争の敗因を取材したノンフィクションシリーズ。①日米開戦勝算なし、②ガタルカナル学ばざる軍隊、③電子兵器カミカゼを制す、④責任なき戦場インパール、⑤レイテに沈んだ大東亜共栄圏、⑥外交なき戦争の終末の全6巻。中でも③電子兵器カミカゼを制すは、レーダーという最先端技術を日米が、それぞれいかに考えていたかを描く。日本の学制の中で、軍に進んだのは貧しい秀才たち。思考より暗記で成績が競われ、梗塞した頭脳で戦争を指揮したことが明確になっている。

●哲学の復興 梅原猛 講談社現代新書
  この本が私の人生を変えた。哲学をやるきっかけとなった本。高校時代に手にして、著者のデカルトの二元論に始まる西洋哲学批判を知った私は、やがて梅原のスタンスである仏教の研究にシフトすることになるのだった。

●そして文明は歩む 森本哲朗 新潮文庫
  1の文明、2の文明、3の文明…。倫理の補習で中国思想を語るとき使ったネタ本。読みやすい哲学書であり、異文化理解のテキストでもある。ただし、かなり手に入りにくいと思う。

●文明の逆説 立花隆 講談社文庫
  哲学者というよりは、日本の知性の代表格である立花隆の危機感を表した書物。様々な問題提起がなされている。一時私がこの本が良いと紹介したら、多くの友人が購入し、口コミでさらに広がって、枚方の本屋で初版でもないのに急遽、入り口に山積みされたことがある。本屋は不思議やったやろなあ。(笑)

●白雪姫コンプレックス 佐藤紀子 金子書房
  心理学の入門書としては最適な本だと思う。グリム童話の白雪姫の真実とは?幼児虐待のパラダイムを描く。また、HR等で私がやった心理テスト「エゴグラム」は、多くの本が出ているが、講談社文庫の自分発見テスト「エゴグラム診断法」が最も廉価だ。教師志望者は手に入れておくといい。

●知って役立つ キリスト教大研究 八木谷涼子 新潮OH!文庫
  なんとなく見た目は軽薄な装丁だが、中身はキリスト教の知りたい情報が満載。特にプロテスタントの各派の詳細な情報が役立つ。そのエキスは倫理の授業で教えたけど、英米文学やヨーロッパ語学、アメリカ学など比較文化専攻のメンバーには必須かな。井沢元彦の「ユダヤ・キリスト・イスラム集中講座」(徳間文庫)もいいで。これを読めば、なぜアメリカがイスラエルを無条件に支援するかがわかる。

●地図で読む世界情勢(1・2)  ジャン・クリストル・ヴィクトル 草思社 
  国際情勢をかなり多くのカラー地図と資料で解説した本。なかなか深いところまで書いてあっておもしろい。ただし、ちょっと高価(1冊1500円ほど)。衝撃の近未来編の第1部・2部も発行されている。
同じような内容の文庫本では、高崎通浩の民族対立の世界地図 (中公新書ラクレ)がいい。こちらは白黒だが、アジア/中東編と欧州/北南米/アフリカ編の2冊に分かれていてなかなか詳しい。国際関係に興味があるなら、その入門書として良いと思う。池上彰のそうだったのか!シリーズは、あまりによくわかりすぎて、多くの本を読まなくなるおそれがあるので、あまり勧めない。学生時代は、次々と疑問をかかえてBOOKサーフィンするのだ!

●地球家族 世界三十カ国のふつうの暮らし ピーター・メンツェル TOTO出版
  総合的な学習の時間などで私が使う写真集。自宅の前に家財道具のすべてを出して記念撮影したもの。日本の家財道具の多さはどうだ!「豊かさ」とは何だろう。家族の表情も含めて見てほしい。異文化理解のために、いつか図書館ででもゆっくり見てほしいなあ。買うと高いぞ。

●肉食の思想 鯖田豊之 中公文庫
  異文化理解、特に欧米の文化の根底にある、小麦+家畜という農業形態に光をあてた文庫本。地理Bの農業で私が語る、米と小麦のカロリーの話が、ここまで発展的にヨーロッパ文明論として語られるとスゴイ。国際関係や国際文化を学ぶメンバーには超オススメ。

●コリアン世界の旅 野村進 講談社+α文庫
  在日韓国・朝鮮の人々の話から始まるノンフィクション。私も知らなかった事が多く書かれていた。特に韓国との関係が重視されてきた昨今、是非読んで欲しい1冊。野村進は、私が期待するノンフィクション作家だ。彼のアジア新しい物語もいい。特にフィリピン編の貧しい少年の話には、…泣ける。
その他のオススメのノンフィクション作家をあげておく。もの食う人びと(生野工業高校時代の教え子で、韓国プロ野球に入団した生徒のことが載っている。)を書いた辺見庸、タイの少女が日本人をかたる話で、アジアと日本の関係性を読み解く傑作・日本人ごっを書いた吉岡忍、マタギや鷹匠など普段接することのない様々な職業の人々を描いた人、夢に暮らす・人、旅に暮らなどの足立倫行がいい。私は授業のネタを常に追い求めているので、小説より、ノンフィクションばっかり読んでいるわけだ。

●人は権力を握ると何をするか 歴史探検隊 文春文庫
  世界史の本もたくさん読んでいるが、これは前述の「アメリカの作り方」の姉妹編。書名にあるごとく、様々な世界史上の権力者が権力を握ると何をしてきたかを並べている。そこにはやはり法則性があるのだ。世界史は、そして人間は、おもしろいよなあ。

●中国の大盗賊 高島俊夫 講談社現代新書
  K先生に一昨年まで存在したスモーキング・ルームで雑談中に教えてもらった本。中国史は、盗賊の政権の連続だと説く。教科書にない史観だが、k先生のような中国通をうならせた一冊故、すごい説得力がある。

●チェルノブイリの祈り(スペトラーナ・アレクシェービッチ 岩波現代文庫)
  環境問題について、また核の問題について興味のある方は是非呼んで頂きたい本。同時に「朽ちていった命ー杯ばくち領83日間の記録」(NHK東海村臨界事故取材班 新潮文庫)も読んで欲しい。

●日本人の価値観・世界ランキング 高橋徹 中公新書ラクレ
  様々なランキングがまとめられている新書。「すすんで国のために戦うか?」という問いに対し、日本は何位だろうか?またトップはどこの国か?など、世界の価値観ランキングである。ちょっと変わった視点から見た異文化理解の本ともいえる。国際関係のメンバーには一読を勧めたい。

●資本主義の終焉と歴史の危機(水野和夫 集英社新書)
  投資先を失った資本主義は終わるという衝撃の書。多少なりとも経済学を学ぶ人間にとっては必読の書だと思う。

●世紀の空売り(マイケル・ルイス 文春文庫)
  かのリーマショックの真実を記録したルポタージュ。結局のトコロ、株式会社化した投資会社に問題があることにたどりつく。

●スタバではグランデを買え! 吉本佳生 ダイヤモンド社
経済や経営・商学部志望者も多いので、最後に経済の本を1冊。価格と生活の経済学と副題がついているこの本は、携帯電話、100円ショップ、スターバックスなど生活に密着した「価格」のしくみを解き明かしてくれる。おもしろい!どちらかというと、経営学・商学部の「マーケティングの基礎」の本かもしれない。この本も一昨年神戸大経営学部に合格したOGに御祝いであげてしまった。(笑)興味のある者には、超オススメやな。続編のクルマは家電量販店で買え!もあるよ。

●国債の歴史(富田俊基 東洋経済)
 国債の世界史について書かれた大著。経済学を学ぶ方には必読の書といえると思う。

●17歳のための世界と日本の見方  松岡正剛 春秋社
京橋の紀伊国屋書店の哲学書コーナーにあったアタリ!の一冊。大学での講演を元にしているから読みやすいと思う。一風変わった人文科学の本。アメリカ人は便所でドアを四回叩くらしい。それがどういうことなのか?様々な角度から世界を見ていく。倫理の授業で話した、うける物語のしくみ…スターウォーズは、神話のおいしいトコどり…などの話が満載。

●誰も知らない 世界と日本のまちがい 松岡正剛 春秋社
上記の続編。「自由と国家と資本主義」という副題が示すように、前者が「自然とのコンフリクト」「自己自身とのコンフリクト」を主要テーマとしていたのに対し、こっちは「社会とのコンフリクト」に重点が置かれている。といっても、カフカとフロイドの話なんかが出てくるし、さまざまな角度から、モノを考え、結び付けていく。現代の哲学は、3つのコンフリクトで単純に分類できないのだ。
  
●シミュレーション世界の社会心理学 広瀬幸雄 ナカニシヤ
  実験的に行った「仮想世界ゲーム」の元本である。もちろん心理学の本。最初のほうに仮想世界ゲームのルール説明がある。その後社会心理学から見た参加者の意識や行動が分析されていく。また、他の環境問題にからめたシミュレーションも紹介されている。心理学に進むメンバーは、せっかく貴重な経験をしたのだから、一読してみてほしい。

●現代国際理解教育事典(日本国際理解教育学会 明石書店)
  実は、私の文章が唯一活字になっている本である。たったの1ページ(シミュレーションゲームという項目だけ)だが、ちょっと誇らしい。国際理解教育学会の叡智を集めた一冊である。